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ダイヤモンドツールとアクロバット飛行機の不思議な関係

ダイヤモンドツールとアクロバット飛行機の不思議な関係

半導体の基板を切断するための一手法であるダイヤモンドスクライビングの始まりは、ガラス切断に始まる。硬いものでも傷をつけると、その傷を起点として破壊されることはありふれた現象であるから、板状のガラスをダイヤモンドのような硬いもので傷をつけて割る「ガラス切り」を誰が始めたのか探ることは難しい。だから半導体が世に生まれ、その基板を切るためにダイヤモンドが用いられたことはある意味自然の流れだろう。

このガラス切りが発展した半導体用ダイヤモンドツールも、当初は未研磨の原石の形の良いものを選び、八面体の頂点を使ってスクライビングが行われていた。

図21

しかしダイヤモンドの硬度には結晶異方性がある。111、110、100のそれぞれの結晶方位で大きく摩耗性が異なるのだ。昔から宝石としてのダイヤモンドを削る研磨職人はそのことをよく理解していて、あの複雑な58面もあるブリリアントカットでもそれぞれ面ごとに研磨する方向が決まっている。ダイヤモンド原石をそのまま使うスクライビング方は耐摩耗性という点では理想的ではない。

1960年代という、半導体産業が大きく成長した時代にそのことに気づいたのが、フランク・クリステンセンという若者だ。彼はスタンフォード大学を卒業すると同時にシリコンバレーにテンプレス・インダストリーズという会社を起業。フェアチャイルドセミコンダクター社を相手に半導体製造装置を供給し発展した。この時にダイヤモンド原石をそのまま使うのではなく研磨し、一つの原石で4つのカッティングポイントを持つという、現在まで続くダイヤモンドツールの形状を考案したのだ。テクダイヤではTD-4Pという型番がついているが、世界中のダイヤモンドツールメーカーが採用するスタンダードな形状である。

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その後フランクは社員数600名規模まで会社を大きくしたが、34歳の時にあっさりと売却し半導体業界からは引退。その売却したお金で農場を買い、私設の飛行場を作り、飛行機の自作キットを販売するクリステン・インダストリーズを設立してしまった。

フランクが飛行機の操縦を覚えたのは16歳の時。大学では産業工学と経済学を勉強していたが、実は本当にやりたかったのは飛行機の方だったに違いない。クリステン・インダストリーズが販売したクリスティン・イーグルは民間のアクロバット飛行機としては、異例の大ヒットとなった。日本では自作キットの飛行機を飛ばすにはいろいろとハードルが高いため実機はお目にかかることは無いが、なんとラジコン機としては人気が高い。もとの設計が相当しっかりしているのか、ラジコン機でもそのアクロバット性能はものすごく高いらしい。

フランク・クリステンセンの話を聞くと、なんとなくイーロン・マスクを彷彿させる。イーロン自身も優秀な技術者であり、Paypalを起業し売却、そして新たに自分のやりたい会社SpaceXやテスラを作った。フランクが今の時代に生まれていたら、それはそれで面白い会社を作っていたのではないか、とつくづく思う。

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