通信機器の小型化に貢献するTECDIAのSingle Layer Capacitor
TECDIAのSLCの主なアプリケーションは、ワイヤレス通信機器用高周波・マイクロ波デバイスの回路および光通信機器用の光送受信モジュール内の回路において、カップリング、デカップリング、DCブロックおよびインピーダンスマッチングを目的として使用され、それら回路においてフィルター回路としても使用されています。近年は、特に通信に使用される信号の周波数が高くなっていることもあり、機器やデバイス自体の小型化が進んでおり、部品類の実装密集度もあがっています。それに応じて、我々部品の製造メーカーも、部品の小型化を進めないとなりません。
テクダイヤのSLCは、使用する材料の誘電率を、10, 40, 90, 130, 280, 1600, 2800, 16000, 30000, 50000をラインナップしていて、それぞれ特徴があるのですが、この幅広い誘電率の材料を揃えることにより、ユーザー様に最適なソリューションを与えています。前述のアプリケーションにおいて、これらの中から最適な誘電率を持つ材料を使用して、ユーザー様のアプリケーションにマッチした製品を提供することにより、最新の通信規格である5Gのアプリケーションにも広く採用されております。
ここで、当社の誘電体材料において、16000, 30000 および 50000という非常に高い誘電率のものは、GBBL (Grain Boundary Barrier Layer) 構造 (Figure 1)により非常に高い誘電率を実現し、機器やデバイスの小型化に寄与しております。
この構造は、絶縁性のある粒界バリアと接触する導電性セラミックで構成することにより、非常に高い誘電率を確保しており、3段階の焼成プロセスで製造されています。これにより、従来の高誘電率系材料では得られなかった高い誘電率を確保すると共に、温度安定性も格段に向上させることに成功しました。
ここで、SLC の静電容量は、Figure 2に示す平行平板コンデンサの式から計算できます。
静電容量は、
ここで、
C : 静電容量 [ F ]
εr : 誘電体材料の比誘電率
ε0 : 真空の誘電率 = 8.854 × 10-12 [F・m-1]
A : 電極面積 [ m2 ]
d : 電極間の距離 [ m ]
まず、280(実際の誘電率は、295になります)の材料では、この式に当てはめて計算すると、電極サイズ1.95mm x 1.95mm 厚さは、0.1mmで、約100pF。電極サイズ 6.2mm x 6.2mm 厚さが0.1mmで、1000pFになります。厚さを0.1mmよりも薄くすれば、サイズを小さくすることは可能ですが、実装上においてハンドリングが困難になり、さらに割れやすくなってくるため、0.1mmの厚みを下限値としております。
ここで、280の材料は、Qも高く、温度特性も良いので、理想的な誘電体材料ではありますので、容量が低いアプリケーションで用いられることが多いのですが、デカップリングの用途として、容量が1000pFになると計算上では製造可能ですが、サイズが大きすぎて現実的ではありません。100pFのSLCも、このサイズにおいても実装的に問題がないという条件において使用可能なサイズです。
また、一般的にコンデンサは、周波数特性を持っていますので、インピーダンスを次の式で表します。
なお、等価回路は、Figure 3のように表します。
ここで、
R : 等価直列抵抗 (Equivalent Series Resistance = ESR)
L : 等価直列インダクタンス (Equivalent Series Inductance = ESL)
ω : 2πf (f : Frequency)
ここで、
になる周波数を、自己共振周波数と呼び、コンデンサとしては、インピーダンスが一番低くなる点です。コンデンサは、この計算式により、周波数が低い領域では、静電容量が低いものほどインピーダンスがたいへん高く、交流信号を通しにくい。自己共振周波数では、一番交流信号が通りやすくなり、自己共振周波数を超える高い周波数領域になると、今度は、インダクタンスの影響でインピーダンスが高くなり、周波数が高くなればなるほど交流信号は通りにくくなります。
この場合、電磁界におけるTE011モードでの計算になり、自己共振周波数 f0は、次の式で表せます。
ここで、誘電体の形状が正方形の場合
ℓ : 誘電体の一辺の長さの2乗と誘電体の厚みの2乗を足してルートした値。単位はm。
この計算式による解と、実際に測定で得られた、SLCの自己共振周波数は近似しています。
SLCの場合は、周波数が高くなればなるほど、実際の測定においては、測定系の誤差、特に測定治具の誤差のキャンセルが大変困難になってきますので、実測値には大きな誤差が含まれてしまいます。しかし、この計算式によりSLCの自己共振周波数が求まりますので、ユーザー様が回路特性をシミュレートする場合に、この計算式から得られた値は、一つの指標になります。
これらから、それぞれの誘電率の材料を使用した場合のSLCのサイズと自己共振周波数を一覧にすると、100pFに関してはFigure 4のようになります。16000以上の誘電率の誘電体の厚さは、当社標準品の0.15mmにしています。続けて、1000pFに関しては、Figure 5のようになります。ここで、表中の誘電体の誘電率において( )内は、当社標準の誘電体の実際の誘電率を記しています。また、ESLの値は、上述の共振周波数の計算結果から導き出した値になります。
誘電体の誘電率 | サイズ (mm) | 厚さ (mm) | 共振周波数 (GHz) | ESL (pH) |
280 (295) | 1.95 x 1.95 | 0.1 | 3.16 | 25 |
2800 (3000) | 0.62 x 0.62 | 0.1 | 3.08 | 27 |
16000 | 0.33 x 0.33 | 0.15 | 2.31 | 48 |
30000 (33000) | 0.23 x 0.23 | 0.15 | 2.12 | 56 |
50000 | 0.185 x 0.185 ※ | 0.15 | 1.99 | 64 |
Figure 4 各種誘電体材料別容量100pF SLC比較表
※ : 当社では、50000の材料において、こちらのサイズは規格外になります。
誘電体の誘電率 | サイズ (mm) | 厚さ (mm) | 共振周波数 (GHz) | ESL (pH) |
280 (295) | 6.2 x 6.2 ※ | 0.1 | 0.99 | 26 |
2800 (3000) | 1.94 x 1.94 | 0.1 | 0.99 | 26 |
16000 | 1.03 x 1.03 | 0.15 | 0.80 | 40 |
30000 (33000) | 0.72 x 0.72 | 0.15 | 0.79 | 41 |
50000 | 0.585 x 0.585 ※ | 0.15 | 0.78 | 42 |
Figure 5 各種誘電体材料別容量1000pF SLC比較表
※ : 当社では、280の材料において、こちらのサイズは規格外になります。
ここで、注目すべきは、もちろん誘電体の誘電率が低いものの方が、Qが高くコンデンサとしての品質は良いのですが、デカップリングとして使うには、誘電率が高いものでも、高い共振周波数を保っているという点です。これは、他社製MLCCにおいて、小型品(0.4mm x 0.2mm x厚さ0.2mm)で100pF品の1.2GHz、1000pF品の360MHzのものと比較しても十分高い値であり、もちろんSLCはワイヤをかけて使用するためワイヤのインダクタンスを加味しないとなりませんが、それを加味しての共振周波数でも有利になります。従って、誘電率が高い小型のSLCは、高周波においても十分性能を発揮することがわかります。
[caption id="attachment_11727" align="alignnone" width="2132"] Figure 6 / Figure 7[/caption]
当社の2800の材料によるコンデンサは、共振周波数も高く、高いQも得られるためたいへん良好な高周波特性を示しています。30000または50000の材料のものは、Qは低くなるものの共振周波数は良好です。この場合、ESRがダンピング抵抗として働き、高周波回路においては、回路の共振を防ぐ効果が期待されるので、Qが高いコンデンサでなければならない回路への用途以外には有効です。A社のMLCCは形状が、0.4mm x 0.2mmと小型のものであるため、当社のSLCとの比較では、共振周波数は低く(ESLが大きい)、特に100pF品は、Qはそれほど高くはないという結果になりました。
1) デカップリングする周波数と、インピーダンスの低い周波数領域である共振周波数に近いコンデンサを選択すること。
2) デカップリングする周波数が高い領域まで効果がある、ESLの低いコンデンサを選択すること。