3Hって何?

金を溶かすヨウ素ヨウ化カリウム溶液

金を溶かすヨウ素ヨウ化カリウム溶液
資源のない国、日本と言われますが、その日本において、世界で2位の産出資源があります。それはヨウ素です。実に世界の約30%を産出、そのうち60%が千葉県で産出されています。ちなみに、世界1位の産出国はチリで、世界の約60%を占め、2か国で世界のヨウ素の約90%を産出していることになります。
今回は、このヨウ素を使って、金を溶かす話です。

【ヨウ素の用途】

ヨウ素の用途は、X線造影剤、医薬品、殺菌剤、変更フィルム、工業用触媒など様々である。生活している中では、ポビドンヨードと呼ばれるヨウ素を含む薬品がうがい薬として用いられており、薬局などでよく見かける。また、小中学校の理科の実験で、ヨウ素デンプン反応として、でんぷんの検出に使ったことを記憶している方も多いのではないでしょうか?
またヨウ素は、体内で甲状腺ホルモンを合成するために必須な元素です。ヨウ素は、昆布、ひじき、わかめなどの海藻類に含まれるため、日本人の場合は食品から摂取されることが多いようです。必須元素のヨウ素、欠乏するともちろん甲状腺などに異常をきたしますが、過剰摂取もよくないとされていますので、注意が必要ですね。

【金の溶解】

前置きが長くなりましたが、そんなヨウ素、我々のような電子部品業界でも使用されています。電子部品の電極には銀、銅、アルミニウムなど、さまざまな金属が使用されていますが、特に信頼性の要求される用途においては、導電率の高さ、環境安定性の高さから金(元素記号:Au)が使用されることがあります。
電極と言っても、多くの場合は数umの薄い膜から成り、微細なパターンに加工されます。その際に用いるのが、ヨウ素ヨウ化カリウム溶液になります。具体的には、金の膜の上に、フォトレジストと呼ばれるカバーを付け、カバーのついていない部分の金を、このヨウ素ヨウ化カリウム溶液で溶かして、様々な形状の金の膜の電極を形成するというものです。我々は、この工程をエッチング、あるいはウェットエッチングと呼んでいます。

【金のエッチング】

一般的にどの薬品に強く、溶かすことが難しい金ですが、比較的有名な王水を使う方法、青酸ナトリウムを使う方法、そしてヨウ素ヨウ化カリウムを使う方法などがあります。
王水(濃塩酸と濃硝酸の3:1の混合物)は、薬品名からしても危なそうですね。実際に危険で、素手で触れれば化学火傷をしますし、塩素ガスや硝酸ガスなど、揮発した成分も有毒です。
また、青酸ナトリウムも、サスペンスドラマで出てきそうですね。ドラマでは青酸カリウムが多いように思いますが、青酸ナトリウムも同じく猛毒で、毒物及び劇物取締法で毒物に指定されています。そのため、取り扱いや保管、廃棄が大変です。
一方、ヨウ素ヨウ化カリウム、なんか難しいけど、「ヨウ素?」、「でんぷんの実験?」、「なんか聞いたことあるぞ!」。そうです、まさにこの小学校の時の理科の実験に用いられていたのがヨウ素ヨウ化カリウム溶液です。私の記憶では、よう素溶液と呼んでいたと思います。このヨウ素ヨウ化カリウムも、金を溶かします。

他にも金を溶解する方法はありますが、安全性や溶液の安定性、エッチングのしやすさなどを考慮して、金電極のエッチングにはヨウ素ヨウ化カリウム溶液が一般的に用いられています。

【化学反応式】

以下に技術ブログらしく、反応式を書きます。

・ヨウ素ヨウ化カリウムによる溶解
I2 + I ⇄ I3
2Au + I3 + I ⇄ 2[AuI2]
[AuI2] + I2 ⇄ [AuI4]

・王水による溶解
HNO3 + 3HCl → NOCl+ Cl2 + 2H2O
Au + NOCl + Cl2 + HCl → H+ + [AuCl4] + NO

・青酸ナトリウムによる溶解
4Au + 8NaCN +O2 + 2H2O → 4NaAu(CN)2 + 4NaOH

 
【参考文献】
海宝 龍夫, 日本が資源大国?それはヨウ素, 化学と教育, 64巻5号(2016 年)p234-237.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/64/5/64_234/_pdf